ねこの森へ帰る

なくした夢にもどっています

「くさい物は嗅げ」

「くさい物は嗅げ」ということわざは、おそらく小さい辞書には載ってないだろう。大きい辞書にも載ってないだろう。なぜならつい先日私がつくったものだからだ。酔っぱらった勢いで口から出てきた割には、なかなか教訓に満ちているので、座右の銘として採用した。

このことわざは「人から伝え聞いたことを鵜呑みにして自分の肉体で体験しないなら、物事を真に理解したことにはならない」という意味である。または、「苦手そうな分野であっても積極的に体験しにいけ」という意味である。または、「逃げずに我慢しろ」という意味である。ことわざというのは解釈に幅があるものだ。口から出た途端にことわざ作家の手を離れるのがことわざなのだ。(ことわざ作家?)

村上春樹のエッセイの中に「臭い肥だめがあって、ここは何故臭いのだろうとわざわざ嗅ぎに行くのは愚か者だ」みたいな話があった気がする(かなり大胆に脳内デコレーション済勘弁)。私は我々の世代によくいる「春樹風生き方かぶれ」の青春を過ごしたので、当然、村上流「くさいものおつきあい術」を採っていた。しかし、35となった今、これを後悔している。

人生は短い。くさい物は、嗅げ。それがもう二度と嗅げない匂いかも知れないから。
それに、実体験を伴わない中年の言葉は若者には届かないのだから。