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ねこの森へ帰る

なくした夢にもどっています

お気に入りとプロパティ

「これからは、ブックマークは『お気に入り』と呼ぶこととします」

……大学時代、Windows95を初めて見た時の衝撃は今も忘れない。マイクロソフトの、あの高らかな宣言に、私は眩暈を覚えた。「お気に入り」! 「お気に入り」だと! あの頃の私は精液の香りをぷんぷん漂わせた童貞文学青年であり、恥ずかしげもなく美意識なんてものを振りかざしていた。そしてその青臭い美意識は「お気に入り」を許さなかった。「このズボンは僕のお気に入りさ」「最近ちょっとお気に入りの女の子がいてね」……そんなのは私から言わせれば、わたせせいぞう以外の人間が使ったらその場で『荒涼館』のクルックのように燃え上がってしまっても仕方がないような言葉だった。ゲイツはユーザーフレンドリーのフレンドさを明らかにはき違えていた。お前とは絶対フレンドになれない。それがWindowsへの第一印象だった。


そのくせ、「設定」とか「情報」とかで良さそうな物はユーザーアンフレンドリーに「プロパティ」である。これも衝撃だった。パソコン用語にしては半濁音が多すぎる。私のそれまでの偏見から言えば、半濁音はパンプキンパイとかポポロンとかメリーポピンズとかポンパドールとか、とにかく女子が好きそうなものにいっぱいつくものだった*1。私はファイルの「属性情報」が見たいのであって、ペンポコンだかパープリンだか、そんなものが見たいのではなかった。ずいぶん時間が経ってから「property=資産・財産」という「出る単」の1ページを思い出したが、そもそもpropertyをカタカナで書くだけで日本語として認知してもらおうなどという甘い魂胆に腹が立った。


それから15年近く経つ。しかし、私は執念深い。「電源のプロパティ」なるものを、私は過去10000回以上いじくっているはずだが、今でも、「なんだよ電源のプロパティって、くそうゲイツめ」と舌打ちをする*2。日本語訳なら日本語訳、カタカナならカタカナに統一すればいいと思う。どちらにもメリットがあるが、この混在ぶりは明らかに両方のメリットを相殺している。この取り返しのつかない状況に対して、最近は「恥ずかしげもないカタカナ語の混在はハリー・ポッター・シリーズの最新作だと思うことにする」という復讐方法を実践中である。


ハリー・ポッターと電源のプロパティ」。
ハリー・ポッターと更新のインストール」。
ハリー・ポッターと新しい接続ウィザード」。
ハリー・ポッターとユーザー補助のオプション」。
ハリー・ポッターとこのコンピュータの管理者」。
ハリー・ポッターと印刷プレビュー」。


どう復讐になっているかはいまいちわかりにくいと思うが、私の気はそれでなんとなく済む。復讐というのはその程度でいいものだ、というのが平和主義者たる私なりのライフハックなのである。ハリー・ポッターと私なりのライフハック。ではまたごきげんよう。

*1:プロパンガスやペロポンネソス戦争のことを女子が好きかどうかは知らない。

*2:ゲイツは日本語を知らないはずだから、これは完全にお門違いの腹立ちである。