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ねこの森へ帰る

なくした夢にもどっています

【電書フリマZ販売書籍紹介】『ぬかるみ』

11月14日、新宿ネイキッドロフトで行われる「電書フリマZ」。ここに出店する「ショップ佐々木あらら」全6冊のラインナップを、1冊1冊紹介していきます。→電書フリマZの最新詳細情報はこちら


ショップ佐々木あらら「字が すくない ほん」ラインナップ紹介その4

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iPad,iPhone版だと文字がぬかるむアニメーションが! 世界初「ちょっとだけ動く歌集」。


【電書情報】

書名:『ぬかるみ』
著:伊勢谷小枝子
定価:300円(ePub版・PDF版込み)
※文字アニメーションはePub版のみ



 伊勢谷小枝子さんは、かんたん短歌の世界でもかなり古株のうちに入るでしょう。『かんたん短歌の作り方』『どうぞよろしくお願いします』『かなしーおもちゃ』『ショートソング』など、ほとんどの「かんたん短歌本」に、彼女の短歌が載っています。
 その作風や魅力については、僕なんかが語るよりも、第一短歌集『平熱ボタン』に対する宇都宮敦の絶讃をご覧いただければおわかりいただけるはず。あ、宇都宮さんというのは、「だいじょうぶ 急ぐ旅ではないのだし 急いでないし 旅ではないし」の、あの、宇都宮さんです。念のため。


「伊勢谷小枝子第一短歌集『平熱ボタン』を読んで」


 その宇都宮敦をして「僕がこれまで読んだことのあるあらゆる短歌のなかで、この短歌がマイ・ベスト、最も好きな短歌だ。」と言わしめたあの作品を収録し、さらにその歌をゆらゆらと動かして載せているのが、この電子短歌集『ぬかるみ』です。

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 『平熱ボタン』より、恋の歌がぎゅっと多くつまっています。それもあんまりままならないタイプの恋愛ばかりの印象。そういう意味でも「ぬかるみ」なのですが、この本にはもう一つのぬかるみが。
 この電書、短歌が、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、ぬかるんだように動きます。*1でも、この短歌はどこがぬかるんでるのかな?……と思うと、全然動かなかったりします。かと思うと、しばらく待つと急に、とか、いや、ほんとに動かない、とか、まったくとらえどころがありません、ぬかるみにはまった読者を作者が上からニヤニヤとながめているような、そんな感じになってきます。


 「ぬかるみ」って、考えてみれば実に実体のつかみづらい存在です。固体でもないし液体でもない、透明でもなく真っ黒でもない、冷たいともいいにくいし優しい温もりがあるわけでもない、善にも寄らないし悪にもなびかない、主役にはならないけれど脇役にしては違和感がある……。そういえば彼女のミクシィでのニックネームも「ぬかるみ」でした。「ぬかるみ」というキーワードは、この本ばかりでなく、伊勢谷さんの短歌・人となり・文体のすべてを形容できる言葉なのかもしれません。
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 実は今回、挿絵のRAKUGAKIRAさん、ページデザイン担当の鈴木夏希さん、アニメーション担当の佐々木あららというスタッフは、全員、ばらばらな場所でばらばらに仕事をしました。伊勢谷さんが強いリーダーシップを発揮したわけでもなく、企画者の僕も、〆切りの管理や技術仕様の連絡以外は、なんとなくつくりたいアニメーションをつくってみただけ、という感じ。
 でも、最終段階でそれぞれの仕事をたばねて電書化してみた瞬間、息を飲みました。短歌の内容・レイアウト・イラスト・アニメーション、そのすべてが有能なプロデューサーが指揮したような統一感ある構成に仕上がっていたのです。遠慮がちなのにいたずら心に富んでいて、それでいて端整で品があって、さりげない。まるで、伊勢谷さんの短歌のような、いや、伊勢谷さんの人柄そのもののような、美しい電子書籍が目の前にありました。びっくりしました。
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 それはまるで、大切な黄身を守るために卵白と卵殻が自然に形成されてゆくプロセスを見つめているようでした。誰が計算してつくるわけでもないのに、卵はあんなに白くて美しく、端整な形で産まれてくる。その不思議さによく似ていました。
 おそらく、みんなが『ぬかるみ』というタイトルに伊勢谷さんを思い、伊勢谷さんという「黄身」を割らないように割らないように包み込んだ末に生まれた卵が、この本なのだと思います。


 あ、『平熱ボタン』のとびきり的確な序文「伊勢谷小枝子さんの突出しなさ」の中で、枡野浩一さんが、同書に収録されていないにもかかわらず「私の好きな最近作」として結びに引用したあの作品も収録、さらにやっぱりちゃぷちゃぷと動かして載せております。ぜひご一読を。

*1:ご注意:動くページは、iPhoneiPadiPod Touchをお持ちの方のみお楽しみいただけます。PDF版は動きません。