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ねこの森へ帰る

なくした夢にもどっています

あまりにも尾籠なため、ある語を「ひよこ」と言い換えております

 人参をたくさん食べるとカロチンの影響で鮮やかな橙色のひよこが出るという。気恥ずかしくて伝聞体で書いてしまったが、先ほど自分の肉体を通してそのようなひよこを生成したので間違いない。都会のオアシスとも呼ぶべき例の小さな水面の底にゆっくりと沈んでゆくオレンジのひよこは、私から言わせれば神々しさや清潔感すら漂っていた。

 同様に、ほうれん草などをよく噛まずに食べることでグリーンひよこは出せそうな気がする。よくわからないがシソをいっぱい食べればパープルひよこもいけるんじゃないか。夢はふくらむ。様々な野菜を摂取し様々な色のひよこを生み出す。このささやかなものづくりの喜び! 消費に疲れた都会人の密かな趣味として注目されるべきではないだろうか。私はすばらしい鉱脈を掘り当てた気がした。

 まずはmixiで「カラーひよこ大好き!」みたいな軽薄な名前のコミュニティをつくろう。「はじめまして」トピと「こんなひよこ出ました」トピは必須。人数が増えてきたところで「カラーひよこ好きな女子集まれ!」的な、さらに細分化されて面倒くさいコミュもできるはずだ。そしてそこにも「はじめまして」トピ。それがmixiだ。

 iPhoneアプリとそれに連動するウェブサービスもあれば便利だろう。撮影したひよこをカレンダーと連携し、クラウド上に保存する。月ごと、あるいは週ごとに一覧できるような軽快なインターフェイスも人気を呼ぶはずだ。食生活を工夫することで七色に色分けされたひよこカレンダーをつくることだってできる。「この人のひよこをシェアする」のボタンを用意してソーシャル化すれば、ますます創作意欲が刺激させられること間違いなしだ。「あー、お昼、ラーメン食べたいけど、いま黄色いひよこつくってるからなー。がまんしてターメリックなめるだけにしよう!」みたいな。

 目が覚め、布団の中で眠気覚ましにスマートフォンを起動して見る「iひよこ」には、知ってるような知らないような距離の人々の朝のひよこが並んでいる。真っ白なひよこは「あ、この人、人間ドックなんだ……」みたいなサインだ。すかさず「次の日に急いで金粉を飲むと幻のゴールデンひよこが出せますよ!」とコメントする。前日「カラーひよこwiki」を読んでいてたまたま知った情報だ。もっとも「ゴールデンひよこ」でググると検索候補に「ゴールデンひよこ 出し方」「ゴールデンひよこ 出ない」「ゴールデンひよこ 攻略」が並んでいるから、そのテクニックはひよこアーリーアダプターのほとんどが知っているといってもいい。

 やがて海外では強者が現れ、毎日バリウムと着色料だけ摂取して生きる人とかも出てくるような気がする。暗闇だと緑白色に光るひよこをYoutubeにアップして大喜びしている若者もいる。おそロシア。

 いまや、飲み会で一番幅をきかせている奴は、iPhone片手にひよこ話で盛り上がる男だ。そいつは妙にひよこ関連アプリに詳しい。そして、津田さんの今朝のひよこはどうだった、とか、孫さんの口癖「出しましょう!」を連呼して盛り上がったりする。その頃にはもう私はそういうグループを毛嫌いするようになっている。人間が狭量なのだ。私は黙ってホッピーのナカのお代わりを待っている。その男には私のひよこ嫌いの理由がわからない。便秘なのだと思われている可能性さえある。違う、違うよ君。私の便通は完璧だ。私はささやかな趣味として、体を用いたアートとしてカラーひよこを提案しただけなのだ。なのにまたしても取り残されてしまった。なぜなのだ。

 ホッピーのナカはまだ来ない。