ねこの森へ帰る

なくした夢にもどっています

ジム・キャリーの魔界大冒険

 ジム・キャリーの変節について、世間はどう評価しているのだろう。
 「エース・ベンチュラ」「マスク」「Mr.ダマー」が立て続けに公開されたのが1994年。その後5年ほどで絶頂を迎えるアメリカのITバブルを予見するようなテンション芸で一世を風靡した。
 そして、映画「ライアー・ライアー」(1997)あたりから徐々に、ハイテンションクレージーな演技を控えていく。「徐々に」というのがこれ以上ふさわしい現象はない、というほどの鮮やかなグラデーションで。
ジム度90%「ジム・キャリーらしくない、シリアスなシーンがあったね」
ジム度60%「あ、今回の映画は、そんなにジム・キャリーっぽくなかったな」
ジム度40%「いくつかジム・キャリーっぽいシーンがあったねー」
ジム度35%「あの場面だけ、昔のジム・キャリーだったね」
ジム度15%「こういう上品なコメディも、ありか……」
ジム度5%「重い映画だったな……」
 みたいな。
 確かに全編着ぐるみで登場する「グリンチ」(2000)はジム度80%ぐらいに戻ったけど、あれだって考えようによっちゃ重い話だ。ご近所トラブル系モンスターを作り出したのは善良な顔をした街の人々自身じゃないか!という話だから。違う?

 グラデーションの結果の是非は知らない。前のジムも今のジムも大好きなので自由自在に行き来すればいいと思っている。ただ、今日に至るまでのジム・キャリー映画のある傾向についてはどうも気になる。以下のリストを見てほしい。


「マスク」(1994)

平凡な主人公が、ある時「つけると無敵のヒーローになる仮面」を拾って困る話

「ライアー・ライアー」(1997)

敏腕弁護士が、ある時から「ほんとのことしか言えない」ようになって困る話

「ふたりの男とひとりの女」(2000)

優しい警察官が、ある時から「凶暴な別人格」を持ってしまい、二人とも同じ女の子を好きになって困る話

ブルース・オールマイティ」(2003)

平凡な主人公が、ある時「神様の仕事」を押しつけられて困る話

エターナル・サンシャイン」(2004)

平凡なカップルが、ケンカ別れした後、別々に「記憶除去手術」を受けたんだけどまた出会っちゃって困る話


 言いたいことはただ一つ。
「お前、それ全部、藤子・F・不二雄じゃん!」
である。
 いや、パクリだと言ってるのではない。F先生に「僕は神様」という短編があったけれど、別に責めたいわけではない。なんというか、プロットとかオチとかがことごとくF先生の短編っぽいんである。これは批判ではない。F先生の短編は全部大好きだ。先生の短編の7割が「平凡な主人公が、ある時から「もにょもにょ」で困る話」だったとしても、いや、むしろ、そこがいいのでわざわざSFシリーズも異色シリーズもブラックユーモアシリーズも揃えている。でも、ジムよ。今は21世紀だ。なぜそこまで古典的ワンアイディアSFにばかり好んで出ようとするのだ……。

  ★

クイズ「ジムorF」! 次の中で、どれがジムで、どれがF先生か、答えなさい。


  1. 平凡な主人公が、死んだ恋人の父親の科学者から秘密の薬を注射され、夜中だけその恋人に変身する、という話

  2. 小さな街で平凡に生活している主人公だが、実はその街は巨大セットで、街の住人も役者で、自分の生活はすべてテレビ番組として放送されていた、という話

  3. 山中で飛行機事故にあった平凡な主人公が、ヒロインと二人、自力で街に戻ってみたら、世界中が深いジャングルになっていた、という話


……難問だ。*1

  ★

 今年(2009年)3月、ジム・キャリーの新作が日本で公開されるらしい。「イエスマン “YES”は人生のパスワード」。実話に基づく、「イエス」しか言わないで生きることに決めた平凡なサラリーマン(また平凡か!)のハートフル・コメディだそうだ。

 あらすじを1行聞いただけなのに、もうそれだけでジムが何をしそうか思い浮かぶ。コンサートに行きたい同僚に仕事を押しつけられて徹夜で働くジムとか、「食えるんだろ?」って言われて鼻からパスタをすするジムとか、赤ん坊のお守りを命じられておしっこ引っかけられるジムとか(前情報なしに思いつきで言ってるのでそんなシーンがあるかどうかは知らないです、念のため)(たぶんない)。最後は恋人にプロポーズされて「イエス!」っていうオチじゃねえのか、という恐怖さえある。違ってくれ、と強く願う。

 ジムはどこを目指しているのか。もちろん、最終的には「のび太」に違いない。想像してほしい。ジャイアンに殴られ、顔がパン生地みたいに凹むジムを。しずかちゃんのお風呂を覗こうとしてお湯をかけられるジムを。ドラえもんに泣きついて鼻からパスタをすする機械を出してもらうジムを。ひとりの部屋であやとりをするジムを。あやとりの新作を作り上げたけど、パパにぶつかって壊されちゃうジムを。真夜中の空き地でさんざん殴られながらもジャイアンを倒すジムを。ドラえもんに「勝ったよ、僕……ついに、ドラえもんなしで……ジャイアンに、勝ったんだよ……」とつぶやく傷だらけのジムを。どのジムも、どこかで既に観たことがあるジムに見えてこないだろうか。

  ★

 そんなジム・キャリーですが、未見の作品も多いので、明日あたりツタヤに行ってみようかと思っています。なんだかんだ言ってジムもF先生も、飽きてはいない。

 じゃ、ハッピー・バースデー、ジム!

*1:クイズの答え。1:F先生「おれ、夕子」、2:ジム「トゥルーマン・ショー」、3:F先生「緑の守り神」