ねこの森へ帰る

なくした夢にもどっています

童貞喪失記(小説)

私は高校生で、童貞だった。
美術系の専門学校に進学して、なお童貞だった。
専門学校を中退し、なお童貞だった。
私の情念は鬱屈し、なお童貞だった。
彼女をつくる人間性はなく、風俗へ行く勇気はなく、それゆえ私は永遠の童貞だった。
だから、エロ漫画を描いた。
描いた、描いた、描いてやった。
陵辱される女をたっぷりと描いてやった。
私の人生がうまくいかない原因すべてを、私のペン先に現れる女にぶつけてやった。
私の情念は童貞達に受け入れられ、私の漫画はそこそこ支持を得た。
私は自信と責任を抱えることになった。
読者はリアリティを求め、私もリアリティを求めた。
何よりの問題は、私が女性器やその他の器官の感触を体験したことがないことにあった。
私はリアリティを取材する必要があった。
風俗に行った。なるほど、これがセックスというものか。だがそれだけでは主人公の情緒面の描写が不足していた。
彼女をつくり、彼女の柔らかさを体験した。なるほど、これが愛のあるセックスというものか。
そのようにして私がリアリティを獲得すると、そのころにはもう私の情念はどこかに消えていて、私はエロ漫画を描くのをやめた。描くために用いていた情熱は、心の中のどこを探しても、もう見つけられなかった。