ねこの森へ帰る

なくした夢にもどっています

石原ユキオはもうすこしモテていいと思う。

 石原ユキオは詩人で、俳人で、映画「岡山の娘」に出演した役者で、でも結局そのどれをいちばんしたいのかはよくわからない人だ。Twitterなどでゆるやかに交流はしているが、それでわかったことは、女性で、というより女子で、とにかくもう女子で、それもいい年をした女子で、岡山在住、ということぐらいだ。

 そして、短歌がすばらしくおもしろい、ということぐらいだ。それで十分だ。僕はたぶん、石原ユキオが好きである。


 ○費用対効果についてご納得いただけましたらお抱きください
 ○いろいろとごめんねいつかかねもちになってあなたをかいしゃごとかう
 ○名刺入れは避妊具ケースに丁度いい「どうぞよろしくお願いします」
 ○十字架がついてる系のしまむらの服はやめろよ三十だろう
 ○祟ります七代後の石原もきっとあなたのことがすきです(すべてTwitterで発表されたもの。以下同じ)


 このからっとした芸風は、岡山に晴れが多いからなのだろうか。
 石原ユキオのノリは、軽い。ただし、その軽みは、彼女自身の生来の軽みというものではない。人生の重みを承認しつつ、痛みとして実感した上で、軽いのだ。
 高橋源一郎がファンタジーについて「そこで起こる重要なあるいはどうでもいいような事件の数々も、(中略)そしてそのすべてを語る作者の声も、その一切が重力のくびきを逃れて浮遊している。この「軽さ」は内閉的な夢を語ることによってではなく、ついに重力から逃れることのできない我々というやっかいな存在の運命を直視することによってしか得られることのできない宝庫なのだ。われわれはこの稀な宝物のことを「ファンタジー」と呼んできたのだ」(酒見賢一後宮小説』新潮文庫、解説)と言っているが、だとすれば石原ユキオの短歌こそ、ファンタジーである。

 佐藤真由美よりもファンキーで、加藤千恵よりも大人。枡野浩一より恋愛経験が豊富で、佐々木あららよりラブリー。石原ユキオはもっとモテていい。そしてもっと売れていい。


 ○「逝きたい」を相殺できる「イきたい」でどうにかこうにか生きていきます
 ○岡山の中学生のスカートはくるぶし丈がいまでも普通
 コンプライアンスの面で問題があります部長とえっちするのは
 ○奥様と同じ名前のみゆきです切羽詰まれば呼んでください
 ○明け方の夢は別れた男たち総出演のクリスマス会
 ○ヨーグルト味のバリウム飲みながら故郷の駄菓子屋を思い出す
 ○着信の夢に飛び起き二度寝したせいで眠いし声が聞きたい
 ○晩秋のバスは峠でため息をついて三人程度吐き出す


石原ユキオ on Twitter
http://twitter.com/m_is
詩・俳句・散文などの作品集&プロフィール:
http://po-m.com/forum/myframe.php?hid=4844
ブログ「石原ユキオ商店」:
http://www.d-mc.ne.jp/blog/575/


おまけ。僕も詠まれた。
 ○婆ちゃんが心肺停止した午後を佐々木あららで笑って過ごす(石原ユキオ)