ジンセ島のヤマーリーとタニャーリー
【1】
ヤマーリーとタニャーリーは双子の女の子。伊豆七島のすぐ近くにあるのに誰にも気づかれない島、ジンセ島に住んでいるんだ。夏はべたべた暑い代わりに冬はクソみたいに寒い、そして梅雨が腹立つぐらい長い。そんなステキな島だよ。
ヤマーリーは中肉中背のお姉さん。朝起きて最初にすることは、「朝ズバッ!」のみのもんたに毒づくこと。
タニャーリーはおてんばな妹。好きな神さまは悪石島の仮面神ボゼだよ。
タニャーリー「お姉ちゃん、お姉ちゃん?」
ヤマーリー「どうしたの? あなたにしてはめずらしくはやおきじゃない?」
タニャーリー「だって、きょうはわたし、朝ごはんの当番だもの」
ヤマーリー「そうだったわね」
タニャーリー「わたし、ダイエットすることにしたの! お姉ちゃんのおりょうりばっかり食べてたら、わたし、きっと、マツコ・デラックスみたいにふとっちゃうにきまってるもの!」
ヤマーリー「あら、マツコもけっこうかわいいじゃない。わたしはすきよ、マツコ。よくみれば目鼻立ちもまあまあととのってるし、あたまの回転もよさそうだし。ステキなひとだと思うわ。」
タニャーリー「そうかしら?」
ヤマーリー「そうよ。」
タニャーリー「よかった。まえから言おうと思ってたんだけど、そうやってソファでねころがってテレビみてるお姉ちゃん、マツコ・デラックスにそっくりよ!」
ヤマーリー「なんですって! きー!」
タニャーリー「じぶんがステキだと思ってる人に似てるって言われたのに、なんで怒るの?」
ヤマーリー「なんでだろう? なんで怒るんだろう? でも、きー!」
【2】
ヤマーリーとタニャーリーは双子の女の子。伊豆七島のすぐ近くにあるテストには出ない島、ジンセ島に住んでいるんだ。特産品は酸っぱくて小さくて固いパイナップルとごく普通の味のラッキョ。そんなステキな島だよ。
ヤマーリーは中肉中背のお姉さん。自分の脇の下の汗をぬぐって匂いを嗅ぐくせがある。
タニャーリーはおてんばな妹。好きな映画は『けんかえれじい』だよ。
ヤマーリー「ごちそうさま」
タニャーリー「おいしかった?」
ヤマーリー「おいしかったわよ?」
タニャーリー「ほんとに?」
ヤマーリー「ほんとに」
タニャーリー「ほんとの、ほんとに?」
ヤマーリー「ほんとのほんとのことなんて、知るべきじゃないと思うわ」
タニャーリー「でもわたしはおしえてほしいの!」
ヤマーリー「ほんとのほんとにいうと、たまごはすこし焼きすぎだったわね。でもって、ほんとのほんとにいうと、ごはんも『しん』がすこし残っていたわ。おみそしるもからかったし」
タニャーリー「ほら、ほんとのほんとは、やっぱりほんとのことじゃない!」
ヤマーリー「でもほんとのほんとにぜんたいてきにはおいしかったわよ」
タニャーリー「ほんとのほんとのほんとにぜんたいてきにおいしかった?」
ヤマーリー「ほんとのほんとのほんとにいうと、たぶん、おいしくはなかったわね。でも、ほんとのほんとのほんとのことなんて、もう、わたしにとっては、ぜんぜんほんとのことじゃない気がする」
タニャーリー「ほんとってむずかしいし、つらいのね」
ヤマーリー「ほんとって、ほんとのほんとをうたがっちゃうと、むずかしいし、つらいの。でも、ほんとのほんとをうたがうのをやめれば、ほんとはいつだって目のまえにあるのよ」
タニャーリー「ほんと?」
ヤマーリー「ほんとよ」
タニャーリー「じゃあ、うたがうのをやめたとして、ほんとはなんだったの?」
ヤマーリー「『わたしはとってもおいしかったとあなたに言いたかった、だから言った』これがうたがうのをやめたときのほんとのほんとじゃない?」
タニャーリー「ほんとだ! ほんとは目のまえにあった!」
【3】
ヤマーリーとタニャーリーは双子の女の子。伊豆七島のすぐ近くにある水不足の島、ジンセ島に住んでいるんだ。ごくたまに計画性のない親子連れの観光客が来ては一家離散を決定的にする、そんなステキな島だよ。
ヤマーリーは中肉中背のお姉さん。特技は体を傾けずにおならをすかすこと。
タニャーリーはおてんばな妹。好きな魚の9割はスズキ目だよ。
タニャーリー「お姉ちゃん」
ヤマーリー「なあに?(ドンドン)」
タニャーリー「そろそろ、かわってよ」
ヤマーリー「なんのこと?(ドン、カッ)」
タニャーリー「それよ!」
ヤマーリー「それって?」
タニャーリー「おねえちゃんがいまやってる『太鼓の達人』よ!」
ヤマーリー「むりよ、タニャーリー(ドンドコドンドンドンドン)」
タニャーリー「なんでむりなの?」
ヤマーリー「あなたはこのたのしさをたのしむことはできない」
タニャーリー「え、どういういみ?」
ヤマーリー「あなたは、いまわたしがたのしんでいるのをみて(ドンドコドン)おなじたのしみをあじわいたい、って思ったんでしょう?」
タニャーリー「そうよ、きまってるじゃない」
ヤマーリー「それはむりなのよ。そのたのしみはわたしがかんじたものだから(ドンドンカッ)、あなたがかんじることはできないたのしみなの。たとえ、脳みそをいれかえたとしても(ドンドンタッタカドン)、そのとたんにこんどはあなたがわたしになってしまうし」
タニャーリー「『太鼓の達人』はだれがやってもたのしいわよ。だってじっさい、お姉ちゃんはたのしそうだし」
ヤマーリー「それは(ドカカカッカ)、わたしのたのしんでいるようすをかんさつしたけっか(ドン)、そとがわからは(カッ)たのしんでいるようにみえた、ということにすぎないわ(カカッカカカッカドン)」
タニャーリー「どういうこと、ちょっとまって」
ヤマーリー「まてないわ、タニャーリー。ほら、連打!(ドドドドドドドン)……あなたが『太鼓の達人』をやったとして、それがたのしいっておもったとしても、いまあなたがわたしをみて、あなたが「わたしもたのしみたい」っておもったたのしみとおなじかどうかは、証明できないのよ。だからあなたとかわることはできない」
(ドン、ドン、ドン、ドン、ドンッカカッカッカドンドン)
タニャーリー「うーん」
ヤマーリー「(カカッカカッカ、ドン)おっとここがむずかしいパート!」
タニャーリー「あ、お姉ちゃん、わかったわ!」
ヤマーリー「わかってくれた?」
タニャーリー「よくわかった。こういうことね(ボカッ!)」
ヤマーリー「いたい! いたいじゃない! ぶつことないでしょう?」
タニャーリー「いたかった?(「曲を選択してください」)」
ヤマーリー「あたりまえじゃない。グーでぶったらいたいにきまってる!」
タニャーリー「あら、わたしにはまったくわからなかったわ」
ヤマーリー「なにそれ? きー!」
タニャーリー「お姉ちゃん。(ドンドンカッ)そのいたみはお姉ちゃんがかんじたいたみだから、わたしがかんじることはできないいたみなの(カッカカッカドン)」
ヤマーリー「えーんえーん! ふっさーる!」
(ドコドンドンドンドコドンドンドンドン)