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ねこの森へ帰る

なくした夢にもどっています

カーテンと空気と清き一票

 昼夜を問わず私の家をのぞき見している男がいる。プライバシー侵害もはなはだしい。
 もちろんカーテンはちゃんと取り付けている。十分にぶあつい遮光カーテンだ。
 しかし、やつは、カーテンの内側にいる私にさえそれと気づくほどの強烈な眼力で、遮光カーテンを見つめている。よく考えれば、その遮光カーテンだって私の私物なのだから、私の重要なプライベートである。私が彼の眼力に気づいて素早くカーテンを開けると、やつはよっぽど逃げ足が速いらしく、姿を消している。カーテンを閉じるとまたどこかから現れ、私の部屋を覗き始める。
 そいつの顔をはっきりと確認できたことはまだ一度もない。すばしこく、狡猾な男なのだ。業を煮やした私は先月からナイトショットつきの防犯カメラを設置しているが、なんらかの巧妙なトリックを使っているらしく、やつの姿をとらえるには至っていない。いたちごっこなのだ。そんなわけで、朝から夜まで、何度もカーテンをめくっては閉じめくっては閉じるの繰り返しで、私は一日忙殺されている。


 このようなプライバシー侵害が堂々とまかり通るのは、つまり、私のアパートの窓と道路との間に広がる空間が無色透明だからである。
 プライバシー侵害の問題の本質は、空気が透明であることの異常性に他ならない。空気が透明でなければ、街で写真をいくら撮ろうとも、誰かのプライバシーに関わる情報がうつることはないので、気兼ねすることなくインターネット上で公開することができるだろう。Googleストリートビューのプライバシー侵害問題も一挙に解決する。ネット上に住所や電話番号が流出しても、空気に色がついていればパソコンのディスプレイを見ることができないので、悪用は難しいはずだ。いいことづくめである。


 無駄な軍事費を開発費に回して、空気に絵や文字を書く技術を開発するのもよい。空気を媒体にした広告によって自治体が独自の収入を得ることも可能となるだろう。空気が読める人も格段に増えるではないか。


 空気を透明のまま放置している行政の失態。失政を隠蔽しようとする体質の与党はともかく、なぜ、政権奪取を目指す野党側もマニフェストにこの問題を取り上げないのか。確証こそないが、何かにつけて透明性を主張するアメリカからの外圧が大きな影響を与えているのだろう、と私は分析している。


 繰り返す。空気の透明性の解消。それが私の政治信条であり、夢だ。


 来週はいよいよ選挙である。プライバシー問題と日夜戦っている私も、1選挙民として微力ながら政治参加させていただく。読者諸姉兄におかれましても、どちらに転がろうと後悔のないよう、責任と誇りを持って1票を投じていただきたい。
 票を投じた者のみが明日の夢を語る権利を持つ。その夢がどれほど実現不可能なものであろうとも。その夢がどれほど狂っていようとも。
 それが民主主義だ。